海外NEWS 009号(米国)
セントラル・パークの観光馬車が存亡の危機!?

発行日
2026年7月
作成
北陸銀行 法人ソリューション部 ニューヨーク駐在員事務所

要約

  • セントラル・パークの観光馬車は150年以上の歴史を持つ一方、動物福祉や安全管理をめぐる問題から存続の是非が厳しく問われています。
  • 2026年6月17日には観光馬車の暴走事故が発生し、18歳の青年が死亡するなど、深刻な事故や馬の死亡事案が相次いでいます。
  • 全面禁止を求める声が高まる一方、御者や労働組合、観光業界は生活や伝統の観点から廃止に反対しており、議論が激しく対立しています。

1. はじめに

ニューヨーク・マンハッタンを象徴し、映画の一場面のようなロマンチックな情景を演出してきたセントラルパークの観光馬車が、いま存続の危機に瀕しています。

150年以上の歴史を誇り、世界中の観光客を魅了する華やかなエンターテインメントとして親しまれてきた一方で、動物虐待とも言える過酷な労働環境と深刻な安全管理の欠如による悲劇が相次いでおり、前時代的な馬車を大都会で走らせ続けるべきか、その倫理的・社会的な是非が厳しく問われています。

大都会を走る観光馬車(筆者撮影)

2. 事故の発生と問題の顕在化

2026年6月17日、セントラルパークで観光馬車の暴走事故が発生しました。インドから観光で訪れていた家族4人を乗せた馬車が突然暴走し、地面に投げ出された母親を助けようと飛び降りた18歳の青年が頭を強打し死亡しました。事故の原因は、乗客の記念写真を撮るために御者が馬車から離れた際、馬がパニックを起こして走り出したことでした。この馬はわずか6週間前に公園で働き始めたばかりであり、大都会の喧騒や突発的な環境変化に対する訓練が不十分であった可能性が指摘されています。

この事故のわずか1週間前にも、セントラルパークで馬が死亡する事案が発生したばかりでした。さらに遡ると、2022年8月にはマンハッタンの炎天下の路上で老いた馬車馬「ライダー」が衰弱して倒れ込み、後に安楽死処分となった痛ましい事件もありました。このように、馬の健康管理や労働環境をめぐるトラブルは繰り返し発生し報告されています。

3. 馬車運行をめぐる批判

本来、広大な自然のなかで生きるべき繊細な動物である馬にとって、過密都市マンハッタンの環境は過酷です。自動車のクラクション、工事の爆音、押し寄せる人波、そして容赦なく照りつける夏の炎熱は、馬にとって大きなストレスになります。

こうした事態を受け、長年この問題を追及してきた動物愛護団体や市民からは、馬車運行の全面禁止を求める声がかつてないほど高まっています。活動家たちは、既存の規定(気温が華氏89度を超えた場合の運行禁止など)が現場で厳格に守られていない実態を問題視し、動物を単なる観光資源や「生きたおもちゃ」として搾取し、利益優先のために馬の福祉が置き去りにされている現状を強く告発しています。隣のペンシルベニア州フィラデルフィア市では、すでに馬車運行を全面的に違法化しており、ニューヨークへの圧力をさらに強める格好となっています。

4. 廃止に反対する立場

一方で、馬車の廃止に強く反対する勢力が存在することも、この問題を複雑にしています。その筆頭が、馬車運行を文字通りの生業としている「御者(馬主)」たちと彼らを代弁する運輸労働組合(TWU)です。観光馬車の従事者の中には移民労働者も多く、馬車は家族を養う生活手段となっています。そのため、全面禁止となれば生存権が脅かされることになり、「既存の規制を強化し、管理監督を厳格にすれば安全は確保できる」と主張し、ビジネスの存続を訴えています。

また、古き良きニューヨークの情緒を惜しむ観光業界からの抵抗も根強く存在しており、ニューヨーク市議会では、全面禁止を求める法案と、運行を維持しつつ規制変更を図る法案が激しく衝突しています。

5. おわりに

一人の若い観光客の命が失われ、数多くの馬たちが過労とストレスで倒れていく現実を前に、これ以上の妥協や伝統への固執は許されないという声が今後さらに強まっていくかもしれません。セントラル・パークの観光馬車をめぐる問題は、単なる観光資源の是非にとどまらず、都市における動物福祉や労働、伝統や観光の在り方を問いかける象徴的なテーマとなっています。議論の行方が気になるところです。

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